『リビング』 重松清
久しぶりの重松作品、『リビング』。 全12作品中の4作品は続き物といった、少し
変則的な短編集です。 今回もネタバレ気味なので、ご注意下さい。(笑)
一番、心に残った作品は「ミナナミナナヤミ」。 片仮名ばかりで「何のこっちゃ」って
思うわな。 この言葉は、主人公の男性を育てた母親の口癖なんです。
その母親は若い頃に大変な苦労を重ね、女手一つで主人公を育て上げます。
その苦労も報われることなく、短命な一生を終えてしまいます。
傍若無人な父親を反面教師とした主人公は、新妻に母親と同じような苦労を
させまいと努力を重ねます。 そんな生活の中、妻が発した言葉は、「別れたい」。
理由が分からず、ふと主人公の口を突いて出た言葉が「ミナナミナナヤミ」。
この時、主人公も妻も、この言葉の意味を全く知りません。
しかし、あるやり取りで、この言葉の本意に辿り着きます。
「ミナナミナナヤミ」=「皆 並みな 悩み」
そう、自分の身に降りかかる苦労も、他の誰かとそれほど変わらない悩みなんだと、
自分に言い聞かせる言葉なんだと気がつきます。
そのやり取りで妻の口にした言葉に、深く考えさせられました。 大体、こんな感じです。
「あなたの母親がうらやましい。 悩みと苦労が一致してて、それを超える事が
幸せだって信じられる。 姑とか夫とか悪者がちゃんと決まってて、自分が不幸
だと思える幸せがある。 でも、私には、何もない。 どうしていいか分からない
不安感だけが、ぽかん、と浮かんでるの。」
実際、そうかもしれんな~と、この台詞があったページを何回か読み直しました。
達成感や充足感は、何か目に見える物、肌で感じられる物、コレといった目標を
乗り越えないと得にくいもんかもしれんわな。 こんな苦労を乗り切ったんだってね。
でもね、主人公と同性の僕としては、やっぱり「でもね」って、言いたくなるんよ。
この後、この二人がどうなったかまでは明記されていません。 いつものパターンで、
読者に余韻を残したまま、短い物語は締めくくられます。 重松作品は、これといった
答えを出してはくれません。 しかし、あれこれ考える事や、色んな考え方がある事を
常に教えてくれます。 その中から、自分なりの在り方を導き出せたらと思ってます。
「ミナナミナナヤミ」、悩み事にぶつかったら、この言葉を思い出してみよっと。
ちなみに、この作品は直木賞受賞作『ビタミンF』と同時期の作品だそうです。
もちろん、『ビタミンF』も読んだんだけど、この作品も負けず劣らずのイイ作品です。
興味のある方は是非、読んでみてね!
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